バスク語を読もう

バスク語読解の記録を不定期に更新

Covid-19ak eragin duen hiztegiak / バスク語とコロナウイルス

今日はバスク語の辞書を刊行している Elhuyar Hizkuntza eta Teknologia*1(以下Elhuyar)の最近の活動を紹介します。

f:id:Na_EUS:20200415222037p:plain

Elhuyar が COVID-19 に関連する語彙を中心にすごい勢いで辞書をアップデートしている、というお話。

 

前置きが長いのですっ飛ばしてくれて構いません

 

 

コロナウイルスが世界的に蔓延していて、毎日のように情報が更新されている状況です。

身の回りを取り巻く情報も更新されていますが、同時に今まであまり馴染みのなかった単語をよく見かけるようになりました。

パッと思いつくだけで「緊急事態宣言」「ロックダウン」「濃厚接触者」「エアゾル感染」「オーバーシュート」「クラスター」などなど。

このへんの単語って数か月前までほとんどお目にかかる機会がなかったんじゃないかな。

 

日本人であれば「緊急事態宣言」や「濃厚接触者」は普段馴染みが薄くても漢字を見れば意味はすぐ分かります。

一方カタカナ用語を乱発されると、瞬時に意味を理解するのが難しく、それは今のような逼迫した状況では結構危険ですよね。

 

同じような状況は日本語だけでなく他の言語でも同様で、特にバスク語のような少数言語にとっては一大事です。

 

もともとバスク語は、周りをスペイン語やフランス語のような強大な言語に囲まれているため、語彙の中に借用語がかなり目立ちます

 

というのもバスク語は、ラテン語がヨーロッパに広がる以前からあった言語の最後の生き残りという説が有力なのですが*2、その場合起源は紀元前までさかのぼることになります。

2000年以上もの間バスク語というアイデンティティを守るためには、周囲のスペイン・フランス語圏の近代化に合わせて、それらの言語から単語を取り入れることが必然だったはずです。

 

ちょっと極端かもしれませんが、、
バスク語が生き残るためにも、非常事態である今だからこそ新しい言葉をきちんとバスク語として定義する作業が急務になっているんじゃないかなと(個人的に)考えています。

 

 

というわけで(前置き長かった!)、ここでは最近 Elhuyar が新たに定義した COVID-19 関連の語彙を3つに分けて紹介します。

こういうアップデートはElhuyar がTwitterで随時紹介しているのでチェックすると面白いですよ。

Elhuyar Hizkuntza (@ElhuyarHizk) | Twitter

 

1.新たに生まれた単語

 「コロナウイルス

  

「人工呼吸器」

 

「抗ウイルス剤」

 

これら3つの単語は新たにバスク語として作られた単語です。今までなかった単語が作られた、ということです。

例えば arnasgailu 「人工呼吸器」は、明らかに arnasa 「呼吸」と gailu「装置」を組み合わせてできた単語です。

今まではスペイン語の respirador をそのまま借用して使っていたのかな?

 

2.意味が追加された単語

以下の単語についてはもともとあったバスク語の単語に、新たに意味が追加されたものと考えられます。

  

 

contención はスペイン語で「抑制」という意味ですが、その意味がバスク語の euste や euspen に追加されたのだと思います。

僕が持ってる紙辞書を見ても、euste と euspen はともに「支援、助け」という意味しか載っていませんでした。

 

そして何やら例文も載っていますね。。。

birusaren aurrerapenaren aurrean euste-neurri eraginkorrak hartu behar dira.

「ウイルスの進行に直面して、効果的な封じ込め対策を採用する必要があります」

 

neurri が「対策」という意味を持つので、

euste-neurri「封じ込め対策」

ここに 形容詞 eraginkor「効果的な」が後ろから修飾し、-rak という絶対格(複数)がついています。「効果的な封じ込め対策」という名詞句に格がついている、というイメージです。

hartu は英語の take「取る」にあたる他動詞、behar は "have to"、dira は自動詞文を示す助動詞、、、、あれ?

hartu が他動詞なのに dira は自動詞文を示す、、、なんだか矛盾してますね。

 

実はこれ受け身を示す表現なんです。

文の中で動作主が出てこない場合、動詞の「自動詞化」というものが起き(常に起こるわけではない)、受け身のニュアンスを表している場合があります。

そういう場合に本来他動詞である hartu を自動詞化するのですが、動詞本体を変化させるのではなく、助動詞が自動詞を示すものに変わる(ここでは dira )、というわけです。

 

これが仮に「政府が封じ込め対策をとる必要がある」という能動態の文章だとすると

Gobernuak(政府-能格)euste-neurri eraginkorrak(絶対格) hartu behar ditu.

となります。

 

完全に脱線しました!

 

3.既に存在する単語を組み合わせた単語

 これは分かりやすいですね。「ソーシャルディスタンス」とか特に。

 

「緊急事態宣言」

  

 「集中治療室」

 

 「ソーシャルディスタンス」

 

 


 

Twitterをフォローしてると分かるのですが、Elhuyarはすごい勢いで辞書を更新しています。

今のこのパンデミック世界的大流行の中で、言葉を扱う組織であるElhuyarが、自分たちに何ができるかをしっかり理解して行動に移してるんだなぁ。とちょっと感無量。

興味のある方は是非フォロー!

 

そのうちバスク語日本語辞書なんて出してくれないかな。

Euskara eta japoniera hiztegia nahi dut!

 

きっとまた更新します。

 

Agur!