Itxialdian Ipar Euskal Herrian / フランスバスクも外出禁止
お題「#おうち時間」
時間があるときはバスク語の読解に限ります。
日本はコロナによる自粛ムードのままですが、5月7日以降緊急事態宣言は果たして解除されるんでしょうか…
正直微妙なところ。
それはヨーロッパも同じで、 フランスでは5月11日が一つのマイルストーンになっているようです。
今回は記事のタイトルにもあるようにフランスバスクの話ですが、フランスバスクはスペイン側と違い自治が認められた州ではないので、結局フランス政府の方針とイコールになります。
ちなみにフランスはヨーロッパ少数言語憲章を批准していないため、フランス国内では公式にはバスク語が保護されていないのが現状です(もちろん公用語でもない)。
ちなみに「フランスバスク」はバスク語で Ipar Euskal Herria と呼ばれています。直訳すると「北バスク」。
Artikulua eta Itzulpena / 記事・訳
記事はこちら。
↓ ↓ ↓
見事に人がいませんね。
でも、、、
これ僕が以前 Vitoria-Gasteiz に行った時に撮った写真なんですが、どのみちいないですね笑
午前10時くらいだったと思うんですが(バスク行くと実際午前中はこんなもんです)。
訳はこちらのリンクから
短い記事だったのですぐ読めるかなと思ってたんですが、フランスバスクの方言なのかなと感じる語彙や文法がたくさん出てきて読むのに苦労してしまいました。
Berria は基本的に標準バスク語だと思っていたのですが…
Analisia eta Azalpena / 分析・解説
最初に引っかかったのはここですね。。
Maskak biztanle ororen eskura izanen dira.
文自体はとても単純な文で、
主語:mask-ak「マスク(絶対格複数)」
補語:biztanle「住人」oro-ren「全て(属格)」esku-ra「手(方格)」
動詞:izan-en dira「ある」(dira は自動詞文+主語が複数であることを示す助動詞)
なんです。
じゃあ何に引っかかったかというと、
izan-en の "-en" という接辞です。
文の構造が単純すぎて、izanen dira が動詞述語であることは疑いの余地がなかったのですが、動詞(izan)に -en という接辞が付いている用法が分からずけっこう色々な文献を調べる羽目になりました。
結論を言うとこれは未来分詞でした。
拍子抜けするほど簡単な話でした。
もちろん未来分詞の存在は知っていました。
バスク語の未来分詞は動詞の完了形に -ko をつけることで作ることができます。
動詞完了形の語尾が n で終わる場合には、n に引っ張られて -ko が -go になります。
子音が有声化するんですね。
ってことはバスク語では語尾の n は軟口蓋鼻音なんだろうな。
ちなみにバスク語の動詞って語尾が -tu, -du で終わるものがとても多いです。-tsi, -tzi, -txi で終わるものもよくあります。
そして -en は何かというと、、 文法書にこんなことが書いてありました。
If the infinitive ends in “n”, we can add -go or -en: joango or joanen. (Western dialects use -go and the others use -en; in literary Basque both are acceptable.)
方言によっては動詞完了形が n で終わる場合に -go ではなく -en を使うこともあるんですね。
知りませんでした。
この記事を書いた記者は一貫して n で終わる動詞を未来形にする際には -en を使っています(後の方にも出てきます)。
これを見つけるのに何時間かかったことか…
もしかすると常識なのかもしれませんが、、備忘録として取り上げました。
というわけで訳も未来形を使ってる感じにして、
「マスクが全ての住人の手元にあるだろう」
となります。
Hala, haren mezuaren arabera, orain arteko «baldintza beretan» Ipar Euskal Herriko itxialdia maiatzaren 11 arte luzatua izanen da:
この文でもさっきの未来分詞が使われていますね(izan-en)。
基本的な構造はシンプルです。
Ipar Euskal Herriko itxialdia luzatua izanen da
副詞句を全部取ってしまうと、こうなります。
解説したかったのは動詞述語の部分。
luzatua izanen da
luzatu「延期になる」という動詞に -a という接辞が付いて、その後に izan-en da と動詞が続きます。
文法書を見ると以下の構造が紹介されていました。
[動詞完了形] + [-a(単)/ -ak(複)] + [助動詞 または izan da/du]
この構造もあまり一般的でないと思うのですが、解説を読むと、
This construction, particularly frequent in the eastern dialects, emphasizes the perfect aspect - that is, the idea of completion or termination of the action.
これも使用法に地域差のある用法のようです。
完了相を強調するために使われるんですね。
この用法をうまく日本語に訳すのは難しいんですが(しかも未来分詞だし)、
maiatzaren 11 arte「5月11日まで」
という副詞句があるので、
「フランスバスクの閉鎖は5月11日までには延期になっているだろう」
って感じなんですかね(5月11日の段階で延期が決まっている)。
«Deskonfinamendua posible izanen litzateke baldin eta birusaren hedapena etengo balitz».
ここではバスク語の仮定法と条件法が両方出てきます。
英語で言うところの、 if A could... , B would... と同じですね。
仮定には条件がつきものなのでこの二つの法はよく一緒に出てきます。
前半の
Deskonfinamendua posible izanen litzateke
が条件法。
後半の
baldin eta birusaren hedapena etengo balitz
この部分が仮定法になります。
バスク語の条件法と仮定法はどちらも、動詞の未来形とそれぞれの法に従って活用させた助動詞がセットになります。
ちなみに条件法・仮定法の活用は以下の表の通りです(自動詞文の場合)。
条件法 | 仮定法 | |
---|---|---|
1 sg | nintzateke | banintz |
2 sg | zinateke | bazina |
3 sg | litzateke | balitz |
1 pl | ginateke | bagina |
2 pl | zinatekete | bazinete |
3 pl | lirateke | balira |
これが他動詞文になるとまた助動詞の活用パターンも変わるのですが、この先出てくることがあったら紹介しますね。
ちなみにここで出てきた動詞は izan も eten も "n" で終わるんですが、なぜかこの記者は前者の未来形活用に -en、後者には -go を採用しているんですよね。
一体どういう使い分けをしているのか…
もう1つちなみにここで出てきた baldin eta... という語彙は条件法を補強するマーカーの役割をしています。あえて日本語に訳すなら「もし万が一~ならば」という感じでしょうか。
ということで全体の訳はこんな感じ。
「もしウイルスの拡散を抑えたとすれば、外出禁止の解除の可能性もあるだろう」
Alta, unibertsitateak udara arte beha egon beharko dute irekitzeko.
これもかなり引っかかりましたね…
まず当然注目すべきは dute という助動詞なのですが、これは
- 主語:複数 - 能格
- 直接目的語:単数 - 絶対格
を示す助動詞です。
つまり、読解の際には能格複数の -ek と絶対格単数の -a を文の中で探すことになります。
ですが、、ここでは頭に unibertsitate-ak という単語(大学という意味)が出てきて、-ak という格が付いています。
-ak は本来、能格単数もしくは絶対格複数を示す格で、dute という助動詞と完全に矛盾してしまいます。。
全体的な意味を考えると unibertsitate-ak が主語だと解釈できるので、これは能格複数となって unibertsitate-ek となってほしいところです。
けっこう悩んだのですが、結論としては2通りの解釈が考えられると思います。
- 文法ミス(元も子もない)
- 方言
上にも書いたように標準バスク語では能格複数は -ek という形をとります。
一方、バスク語は限られた範囲内で話されているにも関わらず、地域ごとにかなり方言差がある言語です(現在は大きく分けて6つの方言があるとされています)。
西端のビスカヤ方言と東端の低ナファロア方言では意思疎通を図るのが困難とも言われているくらいです。
そしてバスク語の方言の中には、能格の単数と複数を区別しない(どちらも -ak)という方言がいくつかあります。
というわけで、この文もその方言が影響しているのかもしれないという仮説(疑念?)が生まれました。
ただ、、
記事元の Berria は、基本的に標準バスク語で書かれているはずであること、また東バスクの方言(フランス方面)では -ak/-ek を区別することが多いことから、やっぱりこれは文法ミスなのでは…と考えています。
最初に egon を自動詞として使おうとして unibertitate-ak としたものを、後で他動詞に変更しようとしたのかなと思います。
そこで -ak を -ek に修正するのを忘れ、編集段階でも抜け落ちたのかなと。
勝手な想像ですが。笑
Koronabirusa detektatzeko probak momentuz aski ez badira ere, maiatzaren 11tik goiti, «gaitasuna ukanen dugu sintomarik duen orori testa egiteko; anartean, lehenik osagarri langileei, adineko jendeari eta kalteberenei egiteko eskatu diet».
長いので解説。後半の≪≫はマクロン大統領の言葉の引用なので、1人称が使われていますね。
分解していきます。
まず、
Koronabirusa detektatzeko probak momentuz aski ez badira ere,
ここでは 助動詞 dira に ba- という接頭辞が付き、この部分が英語のif節にあたる従属節であることを表しています。
dira は主語が複数で且つ自動詞文であることを示す助動詞なので、絶対格複数の格を探します。
すると主語は proba-k「試験、検査」だということが分かります。
detektatu「検知する」が動名詞になり detektatzeko となっているので、主語の部分は
「コロナウイルスを検知するための試験は」と訳します。
momentu-z「瞬間」は、具格と呼ばれる格 -z が付いています。これは英語の with にあたる格なので、「今のところは」と訳します。
aski は「十分な」という意味の数量詞の一種です。 主語に合わせて aski-ak と絶対格をつけたくなるのですが、aski は数の区別をしない数量詞なので、格はつけません。
ere は ba-助動詞とセットで使うことで「たとえ~でも」となります。
ということで、前半は
「コロナウイルスを検知するための試験が十分でないとしても」
となります。
maiatzaren 11tik goiti は「5月11日以降」という副詞句。
後半がマクロン大統領の言葉ですね。
セミコロンの前後で分けます。
まずセミコロンの前。
gaitasuna ukanen dugu sintomarik duen orori testa egiteko;
dugu は主語が1人称複数(能格)、目的語が3人称単数(絶対格)であることを示す助動詞です。
ukan「持つ」が未来形になっているので、「我々は能力を持つだろう」となります。
「持つ」という意味だと izan を使うのが一般的だと思っていたのですが、フランスバスクでは ukan を使うそうです。
sintoma-rik duen oro-ri 「兆候を持つ全員に」← -ri は与格
testa「試験を」
egiteko「行えるように」← egin の動名詞
ということでセミコロンの前を直訳すると、
「我々は、兆候を持つ全員に試験を行えるように能力を持つだろう」
となります。
セミコロンの後もまず助動詞を探します。
anartean, lehenik osagarri langileei, adineko jendeari eta kalteberenei egiteko eskatu diet
diet が助動詞なのですが、これは主語(能格)が1人称単数、直接目的語(絶対格)が3人称単数、間接目的語(与格)が3人称複数であることを示す助動詞です。
複雑。
動詞は eskatu「要請する、要求する」なので、助動詞の情報を考慮すると
「私(マクロン)が誰かに何かを要求する」
という構造だと推察できます。
ここでは「何かを」は省略されていますが、文脈判断で「試験を」だと推察します。
「誰に」対して試験を受けることを要求するのか、という情報が与格によって示されています。
osagarri langile-ei「医療従事者に」
adineko jende-ari「高齢者に」
kalteberen-ei「重症化のリスクが高い人に」
kaltebera「傷つきやすい」が最上級になり、そこに与格が付いています。訳し方が難しかったのですが、ここでは「重症化のリスクが高い・免疫力の弱い」という意味かなと思います。
与格は単数の場合は -ari 、複数の場合 -ei となります。
adineko jende-ari だけ単数の扱いになっていますが、ここでは jende「人々」が単複同形なので、 -ari が使われているのだと思います。
ということで、セミコロンの後は
「一方で、私はまず医療従事者、高齢者、重症化のリスクが高い人に試験を受けるよう要求する」
と訳しました。
Eskatu ere egin du bankuek ordaintzeko epeak orain arte baino gehiago gibela ditzaten.
ここで紹介したいのは接続法の用法。
まず文の中に助動詞が二つ(du と ditzaten)があるので、どちらかが従属節を示しているはずです。
du が従属節を示す場合には -en や -ela が付いて duen / duela となるので、従属節を示しているのは ditzaten だと分かります。
ditzaten はそもそも語尾が n で終わる助動詞なので、そのような場合 -en は省略されるというのがポイントです。
そしてこの ditzaten は接続法活用の助動詞です。
接続法を示す助動詞に -en を付けると、その節全体が目的を表す節になります。
英語で言うところの、so that構文にあたります。
それが分かると以下のように訳すことができます。
「銀行が支払期日を今までより延期するよう、要請した。」
«Plan berezia» aipatu du, zeinean bereziki hunkiak diren sektore horien zergak ezeztatuko baitira, eta laguntza bereziak emanen.
ここで紹介したいのは、「zein... bait-助動詞」という用法です。
zein は英語の which にあたる疑問詞です。
zein-ean と内格が付いているので、in which ですね。
bait- はここでは baitira(bait- + dira)という形で出てきています。
bait- は単独で用いられると、因果関係(理由)を示す従属節を作ります。
一方今回のように zein と一緒に出てくると、いわゆる関係節を作り、名詞(句)を修飾する用法になるので注意が必要です(僕も最初間違えました)。
つまり、zeinean ~ baitira までが ≪Plan berezia≫ 「特別なプラン」の説明になっています。
バスク語では基本的に関係節を作る場合、動詞述語に -en を付けて示します。
その場合、(ほぼ確実に)修飾する名詞の直前に「動詞述語-en」が置かれます。
etorri den gizona「やって来た男」(etorri「来る」、gizon-a「男」)
というわけでこの "zein... bait-" という用法は、前に出てきた名詞(句)を補足説明するときに使われるのだと思います。
訳すときはあんまり気にしませんが。
「特に影響を与えるそれらの部門の税金を廃止するという、≪特別な計画≫」
あ、あとこの記事の最初の方に取り上げた、完了相を強調する用法がこの文でも出てきてますね:hunki-ak diren
記事は短いのに解説はめちゃくちゃ長くなってしまいました。
今度からフランスバスクの記事は避けようかな…笑
でもこうやってバスク語の地域差を記事から読み取ることができるので、それはそれで面白いですね。
Hitzak / 単語リスト
今回、学校を表す単語が3種類出てきました。
それぞれが "school" という意味を持つのですが、今回は以下のように使い分けられていました。
eskola「小学校」
kolegio「中学校」
lizeo「高校」
ただこれも使い方には地域差があるみたいですね。
単語 | 訳 |
---|---|
adineko | 年齢、時代 |
agindu | 注文する、指示する、約束する |
ahalbidetu | 権限・資格を与える、可能にする |
aiduru egon | ~を待って、~を期待して |
aipatu | 言及する、参照する |
aitzina | 先へ、向こうへ、これから先 |
aldi | 時間、期間 |
aldi baterako | 一時的な、一時的に |
alta | 確かに、実際、しかしながら |
anartean | 一方で |
anitz | たくさんの、とても |
arabera | ~によると |
arlo | 野原、田畑、分野 |
aski | 十分な |
aurre egin | 直面する、取り組む |
azpimarratu | 下線を引く、強調する |
baldintza | 条件、要求 |
banku | 銀行 |
baterako | 共同の |
beha | 見ている、注意深い、期待している |
berezi | 特別な |
berriz | もう一度 |
bidez | 途中で、道中、合理的に |
bilakatu | 変える、変わる、変化する |
bildu | 会う、集まる、集める、収穫する |
birus | ウイルス |
biztanle | 住人 |
bultzatu | 押す、突く、促進する |
detektatu | 検知する |
egoera | 状況、状態 |
egun | 日 |
ekitaldi | 式典、儀式 |
ekonomiko | 経済的な、経済の |
eman | 与える、提供する |
epe | 期間、締め切り、日付 |
era | 方法、種類、機会 |
erabilera | 利用 |
eragin | 促す、引き起こす、影響を与える |
eskatu | 要求する、必要とする |
eskola | (小)学校、教室 |
esku | 手 |
eskuratu | 提供する、入手する |
eten | 切断する、介入する |
ezeztatuko | 拒否する、否定する、破棄する、破壊する |
gaitasun | 才能、能力、スキル |
geldialdi | 休止、中断 |
gibelatu | 取り除く、延期する、遅らせる |
gisa | 方法 |
goiti | 上の、超過して、過度に、無駄 |
gune | 場所、地域 |
guzi | 全ての |
harrera | 出迎え、届く距離 |
haur | 子供 |
haurtzaindegi | 保育園、託児所 |
hedapen | 拡張、延長、拡散 |
herri | 国家、国民、国 |
herrialde | 国、領域、領地 |
hitzeman | 約束する |
hots | 音、騒動 |
hunki | 感動させる、影響を及ぼす、触れる |
ikasle | 生徒 |
ipar euskal | フランスバスク |
iragarri | 知らせる、伝える、予想する |
ireki | 開ける |
itxi | 閉じる |
itxialdi | 制限 |
jarraitu | 従う、追う、続ける |
jatetxe | レストラン |
jende | 人々 |
kaltebera | 弱い、傷つきやすい |
kanpo | 外国人、よそ者 |
kirol | スポーツ |
kolegio | (中)学校 |
kultura | 文化 |
laguntza | 助け、支援、協力 |
langabezia | 失業 |
langile | 従業員 |
lehen | 過去 |
lizeo | 高等学校 |
luzatu | 延長する、遅らせる |
maiatz | 5月 |
maska | マスク |
mezu | メッセージ |
momentu | 瞬間 |
muga | 境界、国境 |
neurri | 対策 |
noiz | いつ(when) |
orain | 今、今すぐ |
ordaindu | 支払う |
oro | 全員 |
osagarri | 補足、付属、構成要素、補足の |
pixkanaka | 少しずつ |
presidente | 大統領 |
proba | 検査、試験、試み |
segitu | 続ける、従う、追う |
sintoma | 兆候 |
sistematiko | 組織的な、系統的な、規則正しい |
soldatapeko | 従業員、日雇い労働者、サラリーマン |
telebista | テレビ |
udara | 夏 |
unibertsitate | 大学 |
uztail | 7月 |
xume | 小さな、些細な |
zabaldu | 延長する、解除する、開く |
zehaztu | 特定する、決定する、詳細に述べる |
zein | which(疑問詞) |
zerga | 税 |
zerratu | 閉める、妨害する |